トップページへ
[  トピックス | 愚者のたわごと | ひと | トップへ ]
 
 
  愚者のたわごと 第20回

 
平成13年5月発行
 
 春から初夏にかけては、すべての生きものが輝き、その生命を躍動させる季節です。初々しい木々の若葉、一雨ごとに萌え出ずる若草の緑は、見る見る野山を初夏の姿に衣替えしてゆきます。

 そして、この溢れ出る生命の力は、野山から瑞々しい幸を届けてくれます。香り高い山蕗、ひなびた山の味のぜんまいや蕨です。また筍の歯ごたえも忘れることはできません。 これら初夏の山野を彩る草木たちの、横溢した生命力には驚くのほかありません。

 若い茎をポキリと折ると、そこからは生命の樹液が溢れ出てきます。大地にひそむ生命の泉とつながっているのでしょうか。 初夏に萌え出ずる草木の中で、最も生長の逞しいのは筍です。ある学者の研究によりますと、最も早く新芽が伸びるのはマダケで、一日に一二一aも生長したとのことです。 一日二四時間として、一時間に五aも伸びる勘定になります。石に腰を下ろしてじっと見つめていればその生長の動きを目で捉えられるかもしれません。

 とまれ、さわやかな初夏の山風を頬にうけながら、山の陽光を体いっぱいに受け、自然と渾然一体となる一日を送ることは、現代病に病む人間にとって最も大切な生命への安らぎでありましょう。

 初夏に生命の賛歌を奏でるのは、草木だけではありません。虫たちもまた激しく躍動を開始します。まず、成虫のままで、かの厳しい冬を耐えてきた虫たちです。 足長蜂をはじめとする蜂たち、蜜蜂や花蜂の目覚めは誰よりも早く、テントウ虫、カメ虫、クモたちが活動を始めると、もう蟻が大地を這ってゆきます。絶食の数ヶ月を耐えたこの虫たちのどこに、こんなエネルギーがかくされていたのでしょう。

 新しい巣作りと生殖へ、華麗にして激動の生存競争が始まるのです。  初夏のある晴れた日、小枝に生み付けられていた麩に似た親指大の巣から、小さな乳白色のカマキリそっくりの虫が出たきました。この巣は卵嚢と言い昨年の晩秋にカマキリの親が生み付けたものです。 いよいよカマキリの誕生です。カマキリの食餌は虫です。こんな五_にも満たない、しかもやわらかい赤ん坊に捕食できる虫がいるのでしょうか。

 きっとこの季節に孵化する他の虫のより小さい幼虫がいるのでしょう。 カマキリは生まれるとすぐ一人立ちし、孤独なハンターとしてその生涯を送るのですが、まさに生き残るための絶妙のタイミングに巣立ちを始めるのです。そう思うと一匹一匹に前途に幸あれと祈らずにはおれないような不思議な気持ちになります。 どんな小さな虫にも、生存と運命の試練があります。初夏の一日、これら虫たちの神秘と、自然の生命の尊厳を知ることは、私たち人間の知と善の一つではないでしょうか。
 
  芝 房治
(日本文化の源流
 桜井を展く会幹事長)
 バックナンバー
[ 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18
19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24

[  トピックス | 愚者のたわごと | ひと ]
[ トップページ | 桜井情報 | 桜井観光 | エルト桜井のご案内 | さくらいジャーナル | 掲示板 | リンク集 ]

Copyright 2001 Sakuraitoshikaihatsu Co.,Ltd. All Right Reserved