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  愚者のたわごと 第14回

平成12年11月発行
 
 今年は台風の上陸が皆無という、近年には珍しい気象状況のもとで穏やかな秋を迎えました。しかし、思いがけない集中豪雨が名古屋地方を襲い、鳥取や島根で地震が起きるなど、多くの方々が被災されたことに胸が痛みます。 それを思うにつけても、大和地方の恵まれた風土に対する感謝の気持ちがいっぱいに沸いてきます。

 しかしこの安らぎに慣れて、非常の備えを怠るならば、私たちにもどんな災難が降りかかるかもしれません。「天才は忘れた頃にやって来る」この寺田寅彦の言葉こそ、決して忘れてはならない教訓です。ゆめゆめ防災をおろそかにすべきではありません。

 私の住んでいる南音羽の秋は草刈りから始まる。収穫を前に背丈を越える土手の草刈りに忙しい。山家の里の抜けるような碧空には白雲が一つ二つ悠然と浮かんでいます。刈り終えた土手からは香しい干草の香りが漂い、北からの風がススキの穂をなびかせて吹いてきます。土手一面に咲いていた彼岸花も今はもうその姿を消し、秋の深まったことを告げています。

 日本の秋を代表する野草は、なんといってもススキです。野辺の畦道から山裾にかけて一面に銀波をなびかせる風情は、しみじみと秋の季節感を呼び起こし、雅びを愛する日本人の心をひときわ揺するのです。

 秋草の花を求めて野道を歩むと、どこの野仏にも可憐な野の花がいっぱい手向けられています。素朴な里人のこころづくしが温かく感じられ、民話の世界に佇む思いがします。小さな五弁の花びらを精一杯に開き、鮮やかなピンクに咲くゲンノショウコ、ぱっちりと紫に咲くリンドウ、少しあせた哀愁の赤は山かげに咲くシュウメイギクです。野菊の名で親しまれるヨメナの淡紫、子供のとき金平糖と呼んでいたミゾソバ、目を凝らしてさらにあたりを見れば、ツユクサ、ミズヒキソウ、イヌタデなどなど、もう忘れかけた花たちが、桜井の野にはまだ豊かに育っています。

 がさがさ草むらを歩くと、イノコヅチやチカラグサの種がびっしりとズボンにくっついてきます。犬を連れて野っ原に遊び、このひっつき虫をいっぱいにつけて帰った子供の頃が思い出されます。

 しかし、今はこんな身近な野草の名を知っている人も少なくなりました。その名を聞いても、それがどんな草花か目に浮かばない人も多いようです。あまりに繁多な、そして高度なハイテクの時代、超高文明と思える現代社会に生き、その利便の中にどっぷりと浸っている現代人には、野の花は遠くに置き忘れられたものになっていくのでしょうか。寂しい気がいたします。

 人間は自然の子であります。人間が自然を忘れた時、人間はもう人間でなくなります。さわやかな野に出て秋の自然に親しみたいものです。もう一度秋の自然を見直すために――。

 
  芝 房治
(日本文化の源流
 桜井を展く会幹事長)
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